「朝起きてから腹痛でトイレに長い間閉じこもる」、「学校に行ってからも腹痛や便意で何度もトイレに行く」、そういった事が毎日続いてみられるお子さんでは、過敏性腸症候群(IBS)という疾患の可能性があります。IBSは、もともと幼少時に腹痛を訴えやすい子どもに起こりやすいとされますが、血液や尿・便の検査や腹部レントゲンやエコー検査などでも特に異常は見られません。しかし、症状は改善せず、子どもにとって朝や外出中は本当につらい時間になります。
IBSは、排便に伴う腹痛、下痢、便秘といった症状が長期間続く病気で、症状はよくなったり悪くなったりを繰り返します。この病気の本態は大腸の運動機能異常で、内臓神経の過敏性、大腸粘膜の炎症、心因的要因などが複雑に関与していると考えられています。
心因的な反応としては、学校や家庭等の心理社会的なストレスによって、脳からストレス関連ホルモンが作られ、それが腸の神経に作用して大腸の運動異常を来たし便通異常(便秘や下痢)を引き起こします。また、腸管粘膜の表面が過敏状態となっていることで、便が通過する際のわずかな刺激でも腹痛を感じてしまいます。そして、腹痛に対する不安がさらなるストレスとなり症状が悪化するという悪循環を起こします。
IBSでは、この脳と腸が互いに作用する脳腸相関と呼ばれる状態が大きく関与していると考えられています。
日本における小児IBSの頻度は、小学生で1〜2%、中学生で2~5%、高校生で5~9%とされ、特に中学高校の最終学年に多く、受験のストレスとの関連も指摘されています。
IBSは症状から、次の4つの病型に分類されます。
① 腹痛型:起床時からへそ周りに強い腹痛が続き、長い間トイレにこもるが、多くは午後になり自然に落ち着く。低年齢のお子さんに多いタイプ。
② 便秘型:下剤を使用しないと全く便意がない場合と、便意はあるが排便できない場合がある。
③ 下痢型:朝起きてすぐに腹痛と便意が始まり、繰り返しトイレに行ってもすっきりせず、便ははじめ軟便で次第に下痢便となる。男子に多いタイプ。
④ ガス型:おなら、お腹が鳴る、お腹が張るといった腸のガス症状に悩まされるタイプで、女子に多くみられる。
|
治療は、規則正しい生活や排泄習慣、腹部の保温などが第一となりますが、病型により食事の注意点が異なります。腹痛型や下痢型では冷たい飲物やカフェイン、高脂肪食を控え、便秘型では水分や繊維の多い食品の摂取が大事です。ガス型ではたまねぎや芋類などのガス貯留しやすい野菜や果物、炭酸飲料などを控えます。
IBSと診断されて治療を受けても、腹痛や下痢がすぐに良くなるわけではありません。最初は、症状とうまく付き合いながら症状を軽くすることを目標にして、日常や学校におけるQOLを高めることを目指すことが第一だと考えます。